TOEICとは
TOEICは日本人が考案
TOEICはアメリカのETS(Educational Testing Service)が開発した英語能力試験です。ちなみにETSはTOEFLも主催しています。意外と知られていないのですが、TOEICは日本人が考案した試験です。
TOEIC の生みの親は(故)北岡靖男氏です。生きたコミュニケーションを取ることを主眼とした試験を、ということで、TOEFLを開発したETSに話を持ちかけたと言われています。
このときには既にTOEFLは存在していたのですが、TOEFLは北米大学への留学希望者を対象とするものであったため、一般の学習者には適さないと氏は考えられたようです。ETSはTOEFLという試験があるのだから、と難色を示したそうですが、氏の熱意によって、TOEICが日の目を見ることになりました。
このような歴史的背景もあり、TOEICの受験者に占める日本人の割合は圧倒的です。世界の受験生の約6割が日本人、3割が韓国人だそうです。これはTOEICが必ずしも「グローバル」な試験ではないことを意味しています。
TOEICと中国
なお、これは推測ですが、この受験者層の割合は近い将来大幅に変わる可能性があります。それは、ETSが本格的に中国市場の開拓を始めたからです。
中国では長くTOFELが主流でした。これはアメリカへの留学を希望する学生が多かったためです。ところが、近年アメリカは中国人学生に対して厳しい審査をかけるようになり、ビザが発行されない事態が多発するようになりました。
このあおりを受けて、中国国内のTOEFL受験者数は激減、英連邦で広く通用するIELTSへ受験者が流れる結果となりました。
またこの他に、海外留学生に対する評価が以前より低下していることも原因として挙げられます。かつて海外の大学を卒業し帰国した者は、その時点で既に成功が約束されていたような状態でした。 しかし、近年は留学経験だけではあまり評価されないことも多くなってきているようです。
また、国内の学習環境も以前に比べ大幅に改善されてきているので、あえて国内に止まる学生も増えてきているようです。
これに加え、就職環境の悪化とビジネスの国際化という背景もあります。過剰な労働人口をかかえているので、自然と就職は厳しくなります。一方で海外との貿易は驚異的な速度で伸びていますので、国内で英語を必要とする環境が広がっています。日本と同様、社会人の中に英語を武器にしようという意識が広がってきているのです。
このため、英語は以前のように学生のためだけのものではなくなっています。一方で中国で広く行われている英語資格試験は日本の英検のような位置づけの試験で、必ずしもコミュニケーションを指向しているわけではありません。
ETSが日本でこれだけTOEICを成功させたことを考えても、TOEICが中国で広く受け入れられる可能性は十分あります。なにせ人口が多い国なので、一度広がればあっという間に日本を抜くでしょう。
TOEICは実在しない英語?
話がそれてしまいました。本題に戻ります。TOEICはTest of English for International Communicationの略称です。その名前が表わすようにTOEICで使用される英語には特定の地域性はありません。ETSがアメリカの機関なので、アメリカ英語が主体なのですが、アメリカ人でなければ分からないような表現はありません。
TOEICの英語は、言わば「人工的に加工された英語」です。あのような英語は現実には存在していません。現実社会で使用される英語には、必ず使用者の背景に起因するノイズが入ります。
例えば、非ネイティブスピーカーの英語には多かれ少なかれ訛りが入ります。発音だけではなく、表現方法も独特のものがあります。これはそれぞれ母語の影響を受けているためです。
ネイティブスピーカーの英語でも地域によって大きな差があります。イギリス英語とアメリカ英語は別物ですし、オーストラリアの英語もまた別です。アメリカ国内でも北部と南部では異なりますし、東海岸のニューヨークと西海岸のロスアンゼルスでもやはり異なります。
TOEICにはこれらノイズは一切入っていません。そういった角を取った、まんまるな英語です。自然環境の中では発生し得ない、温室で栽培された植物のようなものです。
TOEICの公式サイトでも、
「その国独自の文化的背景や言い方を知らなければ解答できないような問題は排除されています。」
と説明されています。
逆に言えば、相手の国籍に関係なく通じる(べき)英語ということもできます。「ユニバーサル英語」とでも表現できるような英語です。 外国語として英語を学ぶ者にとって手本とすべき、理想的な英語と言っていいでしょう。
英語はもはや特定の国の言語ではなくなってきているので、このような考え方も重要なのではないでしょうか。