英語習得の道と守破離の法則
「日本人はなぜ英語が苦手なのか」で英語は「知っている/知らない」ではなく、「できる/できない」に分類されるものと述べました。
ほとんどの方が書道等の習い事を経験していると思います。ずいぶん過去の記憶になるとは思いますが、見本があって、ひたすらそれを真似ていませんでしたか。時には見本をなぞったり、また時には先生に手を取って教えてもらったり。
そうやっているうちに、だんだん上達してきます。見本の通りに書くことができるようになると、自分なりにアレンジを加えたくなります。
調子に乗って派手に字体を崩したりすると先生に怒られますが、そんな中でも自分なりの型を模索していきます。
守破離
このパターンのことを「守破離」といいます。これは、物事を学び始めてから独り立ちするまでを三つの段階に分けたものです。
「守」では、師匠の教えを守っていきます。師匠をまねることで、その技術を自分のものにしていきます。
「破」の段階では、師匠の教えを守るだけではなく、破る行為をしてみます。
師匠から学び取った技術に独自の工夫を加え、師匠の教えになかった方法を試してみます。成功すれば、さらに自分なりの発展を模索していきます。
最後の「離」の段階では、師匠のもとを離れて、自分で学んだ内容を発展させていきます。
このようなパターンは書道に限らず、いわゆる習い事といわれるものに共通するものです。そして、英語の習得も習い事なので、この例外ではありません。
「お師匠様」を見つけよう
英語も習い事である以上、師匠について習う方が成長が早くなります。とは言っても、別に学校に行け、ということではありません。
人について学ぶのが理想的ではありますが、本でも構いません。良書はレベルの低い講師100人に勝ります。
まずは英語学習法について書かれた書籍やWebサイトを調べてみてください。
本屋に行けば英語学習法に関する本がたくさん置いてあります。Webサイト上でもたくさん見つけることができます。
問題は、何を基準にして選ぶか、という点です。でたらめな方法をすすめているものを師匠にしてしまったらそれこそ悲惨です。
一方でこれからはじめるという方にとっては、何が正しくて何がおかしいのか判別することは難しいものです。
そこで、まずは判別方法について考えていきます。
理論派と経験派
英語学習法提唱者を分類すると、まず大きく理論派と経験派に分けることができます。
理論派とは英語教育を専攻している方々のことで、その学習法は明確な理論に裏づけされており、非常に洗練された、普遍性の高いものになっています。
一方経験派とは、個人的に高い英語力を身につけた人たちのことで、その学習法はその個人の状況によりまちまちです。
ちなみに近年急速に増えている英語学習法サイトは、この経験派が大半を占めています。
まずは理論派から
英語学習法について調べる際、まず初めに調べるべきものは理論派のものです。
経験派の学習法はその個人の学習経歴や学習環境によるところが大きく、また本人の思い込み等の要素が加わるので、とんでもなく外れたことを言っているものもあるからです。
一方理論派の先生方の提唱する学習法は、英語教育の中で蓄積されてきた、多くの実践経験に基づいています。
先にこちらを研鑽しておくことで、経験派の中に見られる、明らかにおかしい英語学習法を排除することができるようになります。
ここでは書籍を1冊ご紹介しておきます。この書籍は、外国語を学習する方にはぜひ読んでおいてもらいたい一冊です。
面倒に感じる方もいるかもしれませんが、これを読んでおくだけで、結果的に何百時間という時間や、何十万円、何百万円というお金を節約することになるかもしれません。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、勉強法というのは、それぐらい大切なのです。
『より良い外国語学習法を求めて - 外国語学習成功者の研究』
竹内 理 (著) 松柏社
昨年の11月に発行された、この分野に関する最新の書籍です。第二言語の習得に関するこれまでの研究の蓄積を踏まえた上で、英語の「達人」たちの学習経験に分析を加えられています。
先に言っておきますと、この書籍は研究書です。そこらへんにありふれている語学の達の経験談ではありません。
そして、研究書であるが故に、その内容は達人の経験談とは比べ物にならないほど客観性と論理性に基づいたものとなっています。
これまで多くの書籍やWebリソースを見てきましたが、内容においてこれに勝るものはありませんでした。英語の達人による英語学習成功体験談100冊に勝る内容です。
本気で語学に取り組んでいる人はぜひ読んでください。英語を身につけるということとはどういうことなのかよく分かります。
鵜呑みにできない経験派の英語学習法
経験派の場合、同じく一学習者の、いわば語学サクセスストーリーのようなものなので、楽しく読むことができます。
特に自分と性格や境遇が似ている場合や、自分の志望する職業に就いている場合は、いろいろと役に立つコツを大量に仕入れることができます。
その一方で経験派の学習法はその個人の学習経歴や学習環境によるところが大きく、また本人の思い込み等の要素が加わるので、万人向けしないものや、偏っているものも存在します。
このような背景があるので、まずは理論派の学習法について研鑽した後で、経験派の学習法を調べることをおすすめします。
また、学習法について調べていく過程で、全体に共通しているものが何なのか見ていくようにしてください。多くの人が有用だと言っているものは、実際にも有用である可能性が高くなります。
選択に迷った場合は、最大公約数が大きい学習法を選ぶようにしていけば失敗する可能性が低くなります。
理論派の学習法と合わせて、学習法を選択する際の基準にするようにしてください。
エリート組とやりなおし組
経験派の学習法を調べる際、まず初めに確認すべきなのは著者の経歴です。
例えば、著者がいわゆる難関校とされる大学を卒業しているような場合、学校教育の中で既に高度な英文法と、相応の語彙力を身につけています。
このパターンの人の中には「文法など必要ない、ネイティブは話すときいちいち文法など考えていない。私も文法を考えなくなったら話せるようになった」、といった感じで、文法を軽視する人がいます。これは、学校教育の中で文法を身につけてしまったため、文法の大切さを誤認してしまったパターンです。
このような著者が提唱する勉強方法を学校教育の中で英語を避けてきた方が実践しても学習効果は期待できません。
また、例えばTOEICで900以上のスコアを超短期間(6ヶ月以下)で取得したことをうたう本を見かけることがありますが、このような本を書いている著者は、ほとんどが一流、超一流といわれる大学を出ているエリートです。
このタイプの人は初めてのTOEIC受験で、何の準備もなしに700や800を超えるスコアを記録しています。そして2回目ないしは3回目に受験したテストで900をクリアしています。
これらの本では、この間に著者の方が実践した方法が究極の勉強法であることを滔々と述べていますが、現実にはスコア急伸の原因は学校教育の中で身につけた英語力によるもので、平たく言えば、ただ単に試験慣れしただけです。
これらの本で推奨されている勉強法は、TOEICで400前後の人にはまったく真似できないものだったりします。
逆に言えば、自分も著者のような難関校を出ている場合は、著者の提唱する方法で著者と同じような結果を得ることができる可能性が高くなります。
一方、「学校では英語が大嫌い、文法などすっかり忘れてしまった」、という方は、同じく1からやり直した人の勉強法を調べるようにしてください。
商業主義にご注意
学習法選択の際もう一つ注意しなければならないことがあります。それは英語学習の世界にはびこる商業主義です。
例えば英語関連の書籍の表紙には「2週間」とか「7日間」といったような短い期間でマスターできることが殊更に強調されていますが、当然世の中にそんなうまい話はありません。
楽をして身につけたいという学習者の心理を見越してのことでしょうが、こうでもしないと売れないのが現実なのではないでしょうか。
これら学習書の多くは内容的には優れていますが、基本的に英語は短期間で身につけられるものではないことを忘れないでください。
ここでは良書を一冊ご紹介しておきます。非常に有名な書籍なのでご存知の方も多いかもしれませんが。
『外国語上達法』 千野 栄一 (著) 岩波書店
全ての外国語学習者に読んでもらいたい1冊です。語学に対する考え方を根底から変えてしまうかもしれません。わずか735円の書籍ですが、その10倍の価値はあります。
会話スクールや通信講座に数万円のつぎ込むだけの資金があるのなら、まずこれを購入し、熟読してからでも遅くはありません。お金がなければ昼食を抜いてでも購入してください。
これから始める人も、すでに始めている方も、これを読まずして外国語学習は語れません。