発音論争
外国語学習において日本人が最初にぶつかる壁が発音です。海外旅行先などで、英単語をカタカナで発音してみても、まともに通じないこともしばしばあります。
既知の事実ですが、外国語の習得という点から発音について考えると、日本人は明らかに損をしています。日本語の発音は5つの母音を中心とした、比較的シンプルな構成となっている一方で、英語など多くの主要言語は子音、母音ともに日本語よりずっと多いうえ、子音が重なるなど日本語にない発音構造を持っているからです。
発音関連書籍は多数出版されていますが、発音の矯正はその性格上独学では難しく、また、会話スクールへ行っても細かく矯正されることはありません。
これらのため、「発音には自信がある」と言い切ることができる学習者はあまり多くないようです。
分かれる意見
ここから、正確な発音への憧れと反発が生れます。ある人は日本人のカタカナ発音では通じないと主張し、正確な発音を身につけることの必要性を強調しますが、それに対して、またある人はカタカナ発音でも十分に通じる、重要なのは内容だ、と言い張ります。
厄介なのは、両者とも主張を裏付ける逸話を挙げ、それぞれ有名な学者や講師の言葉を引用して論陣を張っているところにあります。いったいどちらが正しいのでしょうか?
この発音の問題については、英語の達人と言われる人々の中でも大きく意見が分かれているようですが、基本的には「通じればいいではないか」派と「正確でなければならない」派に集約されます。で、私はどちらかというと、このどちらとも言えません。
では何なんだと言う事になりますが、私の考えでは、どちらも正しいといえば正しいし、正しくないといえば正しくない、としか言えません。中途半端だと思われるかもしれませんが、もちろんこれには理由はあります。
日本語と英語の発音の違い
日本人にとって、外国語の発音を習得するのは相当の労力を要します。原因は先にも触れたように、日本語の発音構造と多くの主要外国語の発音構造が全く異なるためです。
英語を例に話を進めます。英語の発音は子音に、日本語の発音は母音に重点が置かれています。例えば、日本人は「東京」を「TO」「KYO」と2つの音で呼んでいます。ところが、海外のニュース放送を聴いていると、英米人の「東京」の発音が日本人とずいぶん違うことに気がつきます。
英米人はアルファベットを一つ一つ発音します。「T」「O」「K」「Y」「O」をそれぞれ独立させて読んでいるので、全く異なった発音になってしまっているのです。
また、最近はこのような発音構造の相違の他に、言語の周波数の違いが注目されるようになってきています。研究によると、言語はそれぞれ固有の周波数帯を持っており、日本語は最も低い周波数帯を、英語は最も高い周波数帯を使用していると報告されています。
具体的には、日本語の周波数は最高で1,500HZであるのに対し、英語(米語ではない)では、最低値が2,000HZとなっています。つまり、周波数上日本語と英語の音は全く重複するところがないということです。この他、無声音主体か有声音主体かという違い等もあり、発音については、英語と日本語はまったく別構造となっています。
要は、「日本人にとって英語の発音を身につけることは非常に困難」ということなのですが、このことを起点として、大きく二つの勢力に分かれています。それが先に挙げた「通じればいいではないか」派と「正確でなければならない」派です。
両派の主張
分かりやすいように、両者の主張を箇条書きにしてみます。
◎「通じればいいではないか」派の主張
「通じればいいではないか」派は次のようなロジックを持っています。
- 英語の発音は日本人には難しく、身につかない
- 発音を気にしていたら何も話せなくなってしまい逆効果
- 英語はコミュニケーションの手段なのだから、発音の正確さを気にするより意思疎通に力を入れるべき
◎「正確でなければならない」派の主張
一方、「正確でなければならない」派は次のように主張します。
- 日本人のカタカナ英語発音では相手が聞き取れない
- 発音を知らないと自分も相手のことが聞き取れない
- 発音が下手ではマスターしたとは言えない